2013年6月2日日曜日

足元を見よう

当直中に「プライマリケアの精神医学」井原裕 著 読了。

自らの診療スタンスにそれなりの自尊はもっていたが、EBM重視の医療モデルがここまで持て囃されるようになると、さすがに不安に陥ることも時にあった。しかし、この著作を読んで改めて自らのスタンスを後押ししてくれる根拠が多く描かれていた。

私が住む資源に乏しい地方都市では、来るこどもたちをとにかく診なければいけない現状がある。「僕は私は発達障害でしょうか?」といってやってくるこどもなどだれ一人いない。「起きられない」「つまんない」「ムシャクシャする」「学校いきたくない」「友達が誰もいない」など、生活上の悩みを抱えて皆やってくる。

生活上の悩みをずっと抱えるこどもたちが、保護者と様々な相談機関を訪れると、たいていは「発達障害の可能性」と諭されて医療機関にまわされるような状況が急増している。初診時に相談機関で何を聞かれたかと問うと、細かい生育歴に発達障害特性のチェックリスト、そして知能検査、という流れが多い。

何時に起きて何時に寝ているか?食事は摂れているか?何を食べているか?運動はしているか?家ではどんな話題の会話をしているか?このような日常生活の基本となる事項について、何も確認されなかったということは珍しくない。知能検査の結果で生活習慣がわかるとでもいうのだろうか?

思春期の臨床では、朝起きられない、だるい、学校に行きたくない、という相談が急増する。これらの相談に対し友人関係のストレス、家族間の問題、さらには「アイデンティティの確立の問題」などハードルをやたら上げた問題に置き換えようとする援助者が少なからずいる。足元を見よ。寝不足の原因は?

私の臨床経験上、思春期のこどもたちの多くはオーバーワーク。遅くまで部活動、帰宅して夕食を摂って塾へ行く。塾で勉強した後帰宅して今度は学校の宿題。あっという間に0時を過ぎている。入浴して明日の準備などしていたらもう1~2時を回っている。朝練があるので6時には起床。4~5時間睡眠が慢性持続。

思春期になると周囲より期待されることが急増し、それに応えねばいけないと実直に考えるタイプのこどもたちは、睡眠時間を削りながらヘトヘトなの毎日であるだろう。こんな疲弊した状態で相談機関で心理的な問題を洞察させられたら、さらにへばるのは容易に想像がつく。悩みを増やされて帰ることになりかねない。

私は、医学診断が何であれ、まず最初に伝えていることは「まずは寝よう。寝る時間と起きる時間は固定。おいしい好きなものを一日一回は食べたいね。軽い運動はしようストレッチでもいいから。できれば家のお手伝いを一つしてほしい。親はそれに「ありがとう」と言ってあげて。宿題は中身より出すことに意義がある」これだけである。

生活上の指導なしの臨床はあり得ない。リズミカルな生活が確保されて初めてテクニカルなアプローチがいきてくるのではないだろうか。

もう一度言いたい。「まずは、足元を見よう」

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