2010年5月22日土曜日

おとなの発達障害

子どもは必ず大人になる。

しかし、子ども時代をつらく生き抜いてきた発達障害の人たちは、大人になっても様々な苦労を強いられる。職場の対人関係、恋愛・結婚、など・・・。自分の居場所がなかなか見つからず、どこにいても「居心地の悪さ」を常に感じている。

成人アスペルガーの人たちの苦悩の多くは、「分かり過ぎて逆に選べない」「考え過ぎて疲れてしまう」のであり、わかってない、何も考えてないようだと言われてしまうことに強く憤りを感じている。であるが、その憤りを説明することがなかなかできない。やがて自分を追いこむ負のスパイラルに没入していく。

負のスパイラルから抜け出せないアスペルガーの人たちは、状態像として「うつ」を呈することが多い。ここで、一般的なうつ病の啓発通り「頑張らなくてよい」「無理しすぎるな」という一声は、彼らにとっての今までの苦労を潰すようにきこえる。「今まで何をやってたんだろう・・・」と自己嫌悪に陥る。場合によっては「頑張ることを放棄せよ」と理解してしまうこともあるだろう。

「そんなに頑張らなくていい」と伝えられたアスペルガーの人たちは、その解釈どおり「何もしない」というbehaviorに至る。すると今度は「ちょっとは何かやってみたら?」と声をかけられる。頑張らなくていいんでしょ?ちょっとってどのくらい?何かって何を?・・・思考の過飽和状態は最高潮に達する。

過飽和状態を解消する手立ては、なかなか見つからない。クールダウンさせる方法は、「一人になる」ことくらいしか思いつかない。しかし、自室にこもり、悶々としていると、過去の嫌な体験が甦ってくる。家族につらく当たり、物にも当たってみる。そんな自分が嫌になり、ついには「死にたい、消えたい」という思いが急速に湧き上がってくる。心のどこかでは「何とかして欲しい」と思いつつも・・・。

私の外来に、このような経緯で来院される人が増えてきている。
子ども時代より生きにくさを抱えていた人たちに、寄り添っていく。
ことばや表情ではうまく伝えられない人たち、誤解されるばかりの毎日であったことに共感すると、皆涙を流す。

彼らは抗うつ薬など望んでいない。とにかく「理解」を望んでいるのである。

2 件のコメント:

mah さんのコメント...

 状態像として「うつ」を呈するというところに、大いに感じ入る部分がありました。あとはとにかく「理解」を望んでいるというところにも。

 当事者の方にとって、理解に支えられた関係というものが、生き辛さを抱えながら生き続けるための拠る術として機能するのでしょうね。

じんべい さんのコメント...

はじめまして、twitterから伺いました。
もやもやと、自分の内面が弱って分裂し始めるように感じながら
どうしようもなく家の中で固まっていたところ
この記事を拝見して、どーっと涙が出ました。
成人してから自分の意志で通院しており、
特に発達障害と診断されているわけではありませんが、書かれている文章がとてもやさしくて、こんな風に思って下さる大人がいるんだと思い
厚い壁が崩れて行くようです。
自分の壁に押しつぶされる前に、自分の内面に向き合えそうです。ありがとうございます。穏やかな夜を過ごせそう